地方創生 インタビュー

「町に若者が働く場づくり」を目指す有田町、「駅前に若者が働く場を」と進出した「スチームシップ」

「町の玄関で若者が生き生きと働く姿を」~「スチームシップ」キャプテンCEOが駅前にオフィス「PORTO」を構えた理由

 「地域の宝探しカンパニー」をコンセプトに、地域に密着したクリエイティブ・ソリューションを提供する「株式会社スチームシップ(Steamship)」は昨年(2020年)10月、有田町と進出協定を結び、JR有田駅前の土産品店だった建物を改装し、オフィス「ARITA PORTO」を構えました。平均年齢20代後半という社員(クルー)が、「地域から、未来を変えていく」というミッションのもと、「地域の宝探し」に取り組んでいます。

 「スチームシップ」は2017年4月、藤山雷太キャプテンCEO含む3人で有田町内を拠点に創業。「地域密着型ふるさと納税支援事業」を手掛ける中で、本社オフィスを長崎県波佐見町に構え(HASAMI PORTO)、社員(クルー)が増えていきました。現在、「地域密着型ふるさと納税支援事業」を受託する福岡県糸島市(ITOSHIMA PORTO)、佐賀県吉野ヶ里町(YOSHINOGARI PORTO)、長崎市(DEJIMA PORTO)にもオフィスを構えています。

「スチームシップ」藤山雷太キャプテンCEO

「スチームシップ」が手掛ける「地域密着型ふるさと納税支援事業」は、居住地に関わらず応援したい自治体に寄付ができる「ふるさと納税制度」を通して「地域のブランド価値を上げていく」ことを目標に、運営を引き受ける自治体の返礼品の企画・開拓・管理や、ウェブページの立ち上げ・運営、地域事業者や行政への技術支援、カスタマーサポートなどの業務を一括で請け負います。「スチームシップ」が運営を引き受けた自治体のほとんどで「ふるさと納税額」が大幅に増加したと実績を重ねており、受託自治体は現在、長崎県波佐見町・東彼杵町・西海市・小値賀町・長与町・壱岐市、佐賀県吉野ヶ里町・江北町・白石町、福岡県糸島市・那珂川市と増えています。今後、長崎県長崎市・平戸市、岐阜県土岐市からの運営を受ける予定ですが、「地域密着型」の運営を特徴としており、受託する自治体を無暗に増やさず、今後も丁寧に取り組んでいきたいとしています。

 「スチームシップ」は他に、地域創生関連のセミナーの開催・運営や支援、講演登壇、自治体・企業・個人からの視察など受け入れ、創業支援やDMO立ち上げ支援の業務を行う「地域活性化支援事業」。ECサイトの立ち上げ、及び運用の代行、オリジナルシステムの構築やプロモーション提案する「地域密着型EC戦略支援事業」。地域が抱えるクリエイティブの課題を、地域で活躍するクリエイターと協働し、ドローンなどを使った映像制作、会社や商品のブランディング計画、地場産品コーディネートやOEMのディレクション等を行う「クリエイティブ& コーディネート事業」を手掛けます。

「スチームシップ」本社新オフィス「HASAMI PORTO」の社員(クルー)

「スチームシップ」が創業した有田町に改めて進出したきっかけは、昨年(2020年)、新型コロナウイルス感染症の影響で「有田陶器市」が中止になったことから。藤山キャプテンCEOは創業前、有田町のまちづくり会社に勤めていた経験から、毎年ゴールデンウィークに開催し、約100万人が来場する町の重要イベントが中止になることの影響の大きさを考えていたといいます。そんな中、有田駅前にある、以前土産品店だった空き物件の紹介を受けた時、「ここに拠点(PORTO)を構えよう」と決めたといいます。「有田駅を降りたときに見える景色が街全体の景色。この大事な景色の1つが空いていると聞いた時、真っ先に『景色を作る』と決めた」と振り返ります。

 有田駅前に「どんな『景色』をつくるか」と考えた時、藤山キャプテンCEOは、駅前を歩く学生の姿を思い出したといいます。有田町には「デザイン科」「セラミック科」などの特徴的な学科を持ち、世界でも活躍する優秀な生徒も輩出する「有田工業高校」や、「有田セラミック分野」「地域コンテンツデザイン分野」で学べる「佐賀大学芸術地域デザイン学部(有田キャンパス)」があります。「彼ら学生に、卒業後『有田町で働きたい』とイメージしてもらうために、生き生きと若者が働く景色を作ると決めた」と話します。「JRで有田駅に降り立ち、高校や大学へ通っている若者に働く姿を見せるためには、町内ならどこでもいい、というわけではなく『ここじゃないとダメだ』と強く思った」と熱く語ります。

 動き始めた「ARITA PORTO」には早速、有田工業高校デザイン科出身の社員(クルー)などが働いています。藤山キャプテンCEOは「駅前にオフィスを構えたことで、JRで通うクルーの利便性が上がった。波佐見本社だけだった頃はクルーを1日に何度も有田駅まで送迎していたことも思い出した。『ARITA PORTO』への今後の期待は大きい」と話します。

「ARITA PORTO」で打ち合わせする社員(クルー)

 藤山キャプテンCEOは「長崎県波佐見町に本社を構え、これまで長崎県内の各自治体などとの関わりを強く持てた。今回、県境の隣町、有田町に改めてオフィスを構えたことで、佐賀県内との関わりをさらに強くしていきたい。オフィス作りをバックアップしてもらった有田町には感謝しかない。現在、移住を希望する人向けに町が提供する『お試し住宅』の充実や、例えば、移動手段の乏しさをカバーできるようなカーシェアリングの仕組み作りなど、少しでもハードルを下げる施策に期待していきたい」と期待を寄せます。

有田駅前の通りに面したガラス張りのオフィス「ARITA PORTO」

「サテライトオフィス誘致で『18歳の壁』を低くしたい」有田町の若者の活躍の場づくりと未来戦略

 「『18歳の壁』を低くしていくことがサテライトオフィス誘致の大きな目的」と話すのは、有田町まちづくり課・久保田道彦副主査。「有田町には有田工業高校でクリエイトやデザイン関係を学ぶ優秀な学生が非常に多いが、高校卒業の18歳で、その多くが仕事を求めて町外に出て行ってしまいます。もちろん、国内外で活躍する若者の応援は欠かせないが、『地元で活躍したい』『いずれ地元に帰ってきたい』と考える若者に町内での活躍の場を増やしていくことは有田町の未来により欠かせない」と訴えます。

 有田町は、様々な分野でデジタル化を推進する「有田みらいタウンプロジェクト」を進めており、デザインやプログラミング、AIシステム構築などを手掛ける企業に、有田町にオフィスを構えてもらいたいと考えている。町の基幹産業「有田焼」400年の歴史を通じて、小さい町でありながら常にイノベーションを起こしてきたと考えており、今後は町の未来のため、オフィスを構えてくださる企業と一緒に町の資源や自然を生かしたイノベーションを起こしていきたい」と意欲を見せています。

 有田町では、ソフトウェア業、インターネット附随サービス業、デジタルコンテンツ業などといったIT系企業が進出した場合、新規雇用者3人以上などの要件をクリアすれば、戸建て中古物件の購入や設備導入費などの投資額の2分の1に対し最大1500万円の設備投資奨励金や、有田町在住の正社員1人に対し50万円の雇用奨励金などの補助があります。「大きな都市のようなオフィスビルが充実しているわけではない有田町。街の中心部・内山地区はじめ古民家を活用したオフィスを志向されている企業にとって有田町はよりふさわしいと考えます」と久保田副主査は話します。

有田焼の店舗や工房も並ぶ、町の中心部・内山地区

久保田副主査は「小さい町だけに進出に際してのフォローアップには限界あるかもしれませんが、企業が挑戦したい事業内容が町の発展にもつながるとなれば、町も一緒に事業に取り組むことも考えられるので、ぜひ問い合わせしてほしい」と呼び掛けます。「また、有田町では今後、『STEAM教育』にも取り組んでいきます。若い世代の人材教育を充実させていきながら、進出いただいた企業のもとで、町の若者が貢献できるよう進めていきたい」とも話します。

 「『スチームシップ』社が有田駅前にオフィスを構え、若者が働く風景が加わったことで、変化を実感することができた。このような新たな町の風景をこれからも増やしていきたい」と話します。

ゴールデンウイークに開催し、約100万人の来場がある「有田陶器市」
ジブンノ編集部ジブンノ運営スタッフが、「キャリア」「働き方」「地域活性」をテーマに情報発信します!シームレスな働き方を体現している方々にフォーカスして、企業・地域の最先端の動きに密着していきます!